屋久島旅行日記その2
2008年4月9日4月5日(土)
6:30起床、7:00朝ご飯。ほかの人は出発時間が違うらしく、食堂には私だけ。
メニューは鯖の焼いたの、卵焼き、納豆、海苔、味噌汁、ご飯、漬物。
7:25に宿のワゴン車に乗せてもらい、バス停の近くの弁当屋に行くが、本日休業とのこと。私は宿を予約するときに「2日目は弁当をお願いします」と頼んでおり、ガイドブックには「弁当は前日までに予約をしておけ」と書いてあるので、てっきり宿の主人が弁当を予約してくれているものだと思っていた。向かいの別の店に行ったらおにぎり弁当があったのでそれを買う。500円。
7:39のバスに乗る。一緒に乗った客は空港で降りた。バスには制服姿の高校生がいっぱい乗っていた。土曜日なのに。部活か?
会話はほとんど聞こえなかったけど、一回女子が「エルレ」と言ってるのが聞こえた。こんな遠い島でも高校生はELLEGARDENを聞いているのか!CDどこで売ってるんだろう?
思うに、流行の服を買おうにも島の中ではなかなか難しそうだし、かといって鹿児島に出るのに往復9000円かかるんじゃ、そうしょっちゅうは行けないだろう。どんな生活なんだろうか。
2003年ごろの本だと、屋久島には宮之浦にADSL回線が一本あるだけだと書いてあるんだけど、この宿の主人はブログにYoutubeの動画貼りまくってるから、今はネット環境も発達したのだろう。今はネットがあればどんな奥地でもけっこう普通に暮らせるけど、なかったころはだいぶ違っただろうな。
終点の港まで行ってしまうと即座にバスを乗り換えなければならないので、手前の宮之浦バス停で降り、あたりの道をちょっとひとめぐり。向かいのバス停から白谷雲水峡行きのバスに乗る。乗客は私ともう一人女の子がいるだけ。
細くうねってちょっとでも道をはずれたらまっさかさまに崖へ落ちそうな山道をぐいぐい登りながら、バスの運転手が「今はちょうど山桜がふもとから咲きのぼっていて見ごろだから、一番上の太鼓岩までぜひ行ったほうがいい」と勧めてくれる。また、車窓からサクラツツジや鹿を見せてくれたり。「ヤクシカは山にいっぱいいるよ。かわいかったら連れて帰っていいよ」とか。
バスを降りてトイレをすませ、入山料300円を払って地図をもらい、9:00に登り始める。
最初は石畳の歩きやすい道で、登山の基本「歩幅を小さく、同じテンポで歩く」というのを気にしつつ登る。
飛竜落としという、岩がギザギザに崩落した合間を滝が一直線に駆け下るところを橋から鑑賞して、少し行くと進路の矢印がいきなり巨大な岩の塊を指し示す。いきなりこんな大岩のつらなりを登っていけというのはかなりインパクトがある。「憩いの大岩」という名前なんだけど、「憩い」なのか? 足元を見ると屋久島を形作っている花崗岩の塊だった。
しばらく行くと石畳が終わり、原生林歩道という山道になる。
昨日の天気予報では雨ということだったけど、降らずに道が乾いていて歩きやすかった。歩くところがほとんど岩と木の根の上なので、雨が降ったら滑ってそうとう歩きにくかったと思う。ぬれるとコケや森の様子はきれいになるだろうけど。
岩に生えたコケがあまりにふわふわして見えたので触ってみたら、乾いてちょっとちくちく、ふさふさしていた。
ところどころの枝に結び付けられたピンクのテープで順路をたどりながら、人に追い抜かれ、たまには抜きつつ、のんびり歩く。人に出会う多さは、こないだ平日に高尾山の六号路を歩いたときくらい……10分か15分に一組会うくらい。中高年夫妻、親子連れ、ガイドつきの団体、カップルなどなど。
あとヤクシカに何度か遭遇した。すごい近くで草食べてて、まったく逃げない。こっちがじっとカメラを構えていると、逃げないどころか無視して近づいてくる。最短1メートルないくらいで、手を伸ばすとさわれそう。ただ、森の中なので光量が足りず、鹿の動きがけっこう早いので写真はうまく撮れなかった。さすがにフラッシュをたく気はないし。動画なら撮れたかもしれない。わりと小さい鹿で、すごくかわいい。
ここまでBGMはクレヨン舎「ちきゅうのうた」とか「もののけ姫」だったんだけど、ここでピロウズの「東京バンビ」に変わる。山歩きと全然合わない(笑) あとキツイ山道で「乱太郎」の主題歌の「がんばるしかないさ」ってやつが勝手に脳内再生されたりもしていた。
鹿を見ていたら女の子二人組が追いついてきたときもあって、彼女らが鹿に「たっしゃでなー」って声をかけたら、鹿が「キューーーン」という鳴き声をあげて、女の子のほうがびっくりしていた。なんか、ロケット花火を打ち上げるような音だった。鹿ってあんな声なのか……。
山にはヤクザルもいっぱいいるらしいんだけど、サルは一匹も見なかった。
一度道を間違えた。張り出した木の根が空中回廊みたいになってるところがあって、「すごいところ歩かせるなー」と思いながら渡って少し行くと、ピンクのテープがなくなっている。気づいて戻って道を探すと、「まさかこっちってことはないだろう」というような渡河ルートにテープが結んであった。これは間違えるよ。
順路に何度か沢を渡るところがあるので、雨で増水すると歩けないだろうから、やはり運がよかった。
切り株の上に生えた杉、倒木の上に並んで着生した杉、倒木更新が終わって下がくぐれるようになった杉など、いろんな杉を通り過ぎて白谷小屋にたどりついたのが11:30くらい。ここにもトイレがあるとのことだったけど、小屋の中は暗く湿気ていて、トイレはすごいにおいがして、なんともすごかった。小屋の中じゅうトイレのにおいが立ち込めているので、ここで泊まるのはしんどそう。
そこから少し上に行くといよいよ旅の目的地「もののけ姫の森」。映画の舞台になった場所とのこと。確かにシシ神さまが出てきそうな巨大な木々のうす暗がり、時々ヒメシャラ(表皮にコケを生やさないため、サルスベリのようにつるつるになっている)のあるところだけが明るく見える。
そこから辻峠まではけっこうぬかるんだ道で、岩をつたいながら靴をなるべくぬらさないように登る。沢を渡っていたら、すれ違った男の人が足を滑らせて足首まで川につかっていた。
辻峠から太鼓岩までが道中一番きつくて、狭くてうっそうと暗くて道もよくわからない急な道を、執念だけで登る。
登りは10分という表示があったが、15分ほどかかって登りきった。
思わず「うわあ」と声が出るほど、一気にぐわーーーーーと視界が開ける。
てっぺんの太鼓岩は巨大な丸い大岩で、草木が生えてないので、そこからほぼ360度、下の山々をはるかに見晴らすことができる。
「もののけ姫」のモロの岩といって伝わればいいんだけど……サンたちがねぐらにしてるところで、テーマ曲が流れるところなんだけど。眼下に山々を見下ろすあそこの風景が広がる。ただ、体感的にはあれよりもっとずっと距離感があって、FFXの死界の花畑の滝の場面くらい広いスケール感があった。
とにかくここの景色はすごくて、行った甲斐があった。バスの運転手が行ってた山桜はまだずっと下のほうにしかなくてあまりよくわからなかったけど。
何千歳もの杉とか、こういうスケールの中にいると、締め切りの一日や二日なんかどうでもいいような気になる(笑)
私が日々ラフ用紙や赤字や画像データやなんかに取り囲まれてあたふたしているときに、アラスカの山にはクマがいて、屋久島の森には杉がただ立っているということを想像するのは、気分がいい。
あと、人間はちょっと地球の上にはびこっているけど、動物の一種なんだから、今は殖えればいいんじゃないの、みたいなことも思った。石油がなくなったり温暖化で地面がなくなったり戦争が起きたり宇宙開発したり、人間は滅びたり滅びなかったりするかもしれないけど、結局動物の一種なんだから、とりあえず地表に殖えとけばいいんじゃないの、と。100年後はまだしも1000年後は誰にもわからない。
そんなことも考えながら山道を歩いていたんだけど、基本的には道を追ったり足元をよく見て転んだり滑ったりしないように気をつけるのに精一杯だから、あまり何かをぼーっと考える暇がない。わりと山歩きの間は自分が無になる。行く前に読んだ田口ランディの屋久島本に、「人が敷いたレールとか、歩きやすいところを歩いているから人はよけいなことをぐちゃぐちゃ考えるのであって、必死に道を探しながら進んでいたら何も考えない」と書いていた。そういうものだ。
あと、自然のままの山道のように見えても、歩きにくいところはけっこうちゃんと手を入れてある。ピンクのテーピングもそうだし、木で階段を作ったり、邪魔な根を削ってあったり。
全体として、「大自然の中にあって人間を思う」道のりだった。
さて、太鼓岩の上は風が強くて寒かったけど、こんな絶景のところで弁当を食べない手はないので、岩陰の風がしのげるところに座って弁当を広げる。私が来たときほかに2人いたけど、しばらくしたらいなくなったので私の貸切だった。
弁当はおにぎり2つと鳥のからあげとエビフライと卵焼きと昆布の佃煮。
食べていたら、ガイドに連れられた女性二人組がやってきた。ガイドいわく、混んでるときはここで弁当を食べると怒られるらしく、「ラッキーでしたね」とのこと。そうなのか。
その人にシャッターを押してもらって写真を撮った。一人だと自分の入った写真が撮れない。
ガイドがいると草花とか歴史とかいろいろ知識を教えてもらえて面白そうではあるんだけど、マイペースで歩けないのはやっぱり嫌だ。ガイドと1対1だったとしても、なんていうか、見栄えを気にするっていうか、「こんな程度で疲れたとか言っては恥ずかしい」とか考えてマイペースで歩けないと思う。友達とわいわいしゃべりながら歩くのも楽しいとは思うんだけどね。一人だと何か面白いことがあっても心の中にしまっておく(そしてあとで日記に書く)しかできないし。
太鼓岩は特定の場所を叩くとスイカのようなポンポンという音がする。中が空洞だかららしい。ますますサンのねぐらっぽい。
帰り道は来たときと別のルートを通る。
山は登りより下りのほうが怪我が多いというのは有名な話だが、ほんとにすぐさま脚がガタガタになる。休み休み、気を抜いて転んだりしないように気をつけて下る。
ペットボトルのお茶を飲みきったので、渓流の水を汲むことにする。屋久島の山の水は川で汲んでそのまま飲めるという。ミネラル豊富な超軟水らしい。すぐに流れ落ちるので川にはプランクトンや魚がほとんどおらず、そのため水鳥もいない。
ということは頭でわかっているんだけど、やっぱり川の水を汲んでそのまま飲むのはどうしても抵抗がある。実際飲んでみると冷たくておいしいんだけど、お腹が「???」みたいな反応を示す。気のせいだと思うんだけど。やはり都会っ子なので、本当の冒険とかでは生きていけないなあ。
9:00に登り始めて、太鼓岩のてっぺんに着いたのが12:20、下り始めたのが12:50。最後のバスが16:10なので、登りと下りを3時間半ずつという目安にしないと間に合わないと計算していた。でもさすがに下りは一気に降りられるので、その前の15:00のバスに間に合った。
といっても、弥生杉を見る寄り道コースは断念。もう足がくたくた。
帰りは楠川歩道というコースを通るんだけど、「歩道」という名前なので行きの最初のような石畳の歩きやすい道を想像してたら、全然違った。江戸時代、島津藩が屋久島の杉を伐採して売ってたころ、男衆が山に入って杉を伐り、女子供がこの歩道を使って運び出していたらしい。楠川歩道は当時から残る石を積んで作った道ということなんだけど、この石積みが歩きにくい。
最後に飛竜落としの横のベンチに座ってお菓子を食べていたら、突然ベンチにひょっこりとイタチ(?)が上ってきた。思わず「うわっびっくりした」と声を出したら、相手も「ひゃっ」って感じでびっくりして、逃げていってしまった。かわいかったなぁ。
15:00のバスはまつばんだ交通という別会社のバスなので、一日フリー乗車券が使えない。もったいないけど、16:10までただ待ってるのも暇だし、寒い(山はけっこう寒い。歩いてると暑くなるから、薄い服を何枚も重ねて脱いだり着たりしていた)。
待合所に落書きノートがあって、各地の観光客の感想が書いてあった。「見ろ、足が棒のようだ!byムスカ」はちょっとフイタ。
バスで530円払って宮之浦港入り口まで戻る。昨日の文化村センター付設のカフェ「ジェーン」に入って一休み。
たんかんタルトとカプチーノ、850円。たんかんというのはポンカンとネーブルのかけあわせで、大きなみかんみたいな感じ。タルトの上に輪切りにしたたんかんが載ってる。タルトの皮がやたら硬くて粉っぽいのが、いかにも手作りという味だった。
そのあとまた資料室で本を読んで、昨日と同じ16:46のバスに乗って安房に戻る。
バスに乗るころ雨がパラついてきて、乗ってる間けっこう降ってたけど、バスを降りたらやんでた。天気がもって本当によかった。
バス停の近くに本屋があったので入ってみる。文房具も売っている店で、外国人の客が折り紙を買っていた。白谷雲水峡でも何人か見かけたな。
宿に帰るなりお風呂に入る。明かりをつけるのを忘れて入ってしまい、だんだん日が暮れて暗くなってくるので焦った。小さいけど深い湯船にみっちりつかる。それにしても人の家のシャワーは使いにくい。
少し休んでから、19:00に宿の近くの「れんが屋」へ食事に行く。ここは鹿の肉で有名な料理屋で、ガイドブックにもよく載っている。
外に出ると、街灯が50メートルおきくらいにあるんだけど、家が少ないからめちゃめちゃ暗くて、人通りも車もまったくない。
でもれんが屋にはけっこう客が入っていた。大きな座敷をついたてで仕切ったすみっこの卓につき、鹿・豚・牛セットの焼肉定食1450円と、たんかんジュース400円を注文する。
一人カラオケはよくやるけど、ついに一人焼肉にもデビューか……。
肉のほかには、もやしの和え物、切り昆布のからしマヨネーズ、山菜の和え物、わかめスープ、ご飯、漬物。鹿肉は全部が赤身のくせのない味で、高たんぱく低カロリーらしい。牛はかたくて、豚が一番おいしいような気がした。
20:00にはまた小雨のぱらつく中宿に戻り、のんびりと世界樹を進めて、また23:00には寝る。疲れもあってよく寝られた。
6:30起床、7:00朝ご飯。ほかの人は出発時間が違うらしく、食堂には私だけ。
メニューは鯖の焼いたの、卵焼き、納豆、海苔、味噌汁、ご飯、漬物。
7:25に宿のワゴン車に乗せてもらい、バス停の近くの弁当屋に行くが、本日休業とのこと。私は宿を予約するときに「2日目は弁当をお願いします」と頼んでおり、ガイドブックには「弁当は前日までに予約をしておけ」と書いてあるので、てっきり宿の主人が弁当を予約してくれているものだと思っていた。向かいの別の店に行ったらおにぎり弁当があったのでそれを買う。500円。
7:39のバスに乗る。一緒に乗った客は空港で降りた。バスには制服姿の高校生がいっぱい乗っていた。土曜日なのに。部活か?
会話はほとんど聞こえなかったけど、一回女子が「エルレ」と言ってるのが聞こえた。こんな遠い島でも高校生はELLEGARDENを聞いているのか!CDどこで売ってるんだろう?
思うに、流行の服を買おうにも島の中ではなかなか難しそうだし、かといって鹿児島に出るのに往復9000円かかるんじゃ、そうしょっちゅうは行けないだろう。どんな生活なんだろうか。
2003年ごろの本だと、屋久島には宮之浦にADSL回線が一本あるだけだと書いてあるんだけど、この宿の主人はブログにYoutubeの動画貼りまくってるから、今はネット環境も発達したのだろう。今はネットがあればどんな奥地でもけっこう普通に暮らせるけど、なかったころはだいぶ違っただろうな。
終点の港まで行ってしまうと即座にバスを乗り換えなければならないので、手前の宮之浦バス停で降り、あたりの道をちょっとひとめぐり。向かいのバス停から白谷雲水峡行きのバスに乗る。乗客は私ともう一人女の子がいるだけ。
細くうねってちょっとでも道をはずれたらまっさかさまに崖へ落ちそうな山道をぐいぐい登りながら、バスの運転手が「今はちょうど山桜がふもとから咲きのぼっていて見ごろだから、一番上の太鼓岩までぜひ行ったほうがいい」と勧めてくれる。また、車窓からサクラツツジや鹿を見せてくれたり。「ヤクシカは山にいっぱいいるよ。かわいかったら連れて帰っていいよ」とか。
バスを降りてトイレをすませ、入山料300円を払って地図をもらい、9:00に登り始める。
最初は石畳の歩きやすい道で、登山の基本「歩幅を小さく、同じテンポで歩く」というのを気にしつつ登る。
飛竜落としという、岩がギザギザに崩落した合間を滝が一直線に駆け下るところを橋から鑑賞して、少し行くと進路の矢印がいきなり巨大な岩の塊を指し示す。いきなりこんな大岩のつらなりを登っていけというのはかなりインパクトがある。「憩いの大岩」という名前なんだけど、「憩い」なのか? 足元を見ると屋久島を形作っている花崗岩の塊だった。
しばらく行くと石畳が終わり、原生林歩道という山道になる。
昨日の天気予報では雨ということだったけど、降らずに道が乾いていて歩きやすかった。歩くところがほとんど岩と木の根の上なので、雨が降ったら滑ってそうとう歩きにくかったと思う。ぬれるとコケや森の様子はきれいになるだろうけど。
岩に生えたコケがあまりにふわふわして見えたので触ってみたら、乾いてちょっとちくちく、ふさふさしていた。
ところどころの枝に結び付けられたピンクのテープで順路をたどりながら、人に追い抜かれ、たまには抜きつつ、のんびり歩く。人に出会う多さは、こないだ平日に高尾山の六号路を歩いたときくらい……10分か15分に一組会うくらい。中高年夫妻、親子連れ、ガイドつきの団体、カップルなどなど。
あとヤクシカに何度か遭遇した。すごい近くで草食べてて、まったく逃げない。こっちがじっとカメラを構えていると、逃げないどころか無視して近づいてくる。最短1メートルないくらいで、手を伸ばすとさわれそう。ただ、森の中なので光量が足りず、鹿の動きがけっこう早いので写真はうまく撮れなかった。さすがにフラッシュをたく気はないし。動画なら撮れたかもしれない。わりと小さい鹿で、すごくかわいい。
ここまでBGMはクレヨン舎「ちきゅうのうた」とか「もののけ姫」だったんだけど、ここでピロウズの「東京バンビ」に変わる。山歩きと全然合わない(笑) あとキツイ山道で「乱太郎」の主題歌の「がんばるしかないさ」ってやつが勝手に脳内再生されたりもしていた。
鹿を見ていたら女の子二人組が追いついてきたときもあって、彼女らが鹿に「たっしゃでなー」って声をかけたら、鹿が「キューーーン」という鳴き声をあげて、女の子のほうがびっくりしていた。なんか、ロケット花火を打ち上げるような音だった。鹿ってあんな声なのか……。
山にはヤクザルもいっぱいいるらしいんだけど、サルは一匹も見なかった。
一度道を間違えた。張り出した木の根が空中回廊みたいになってるところがあって、「すごいところ歩かせるなー」と思いながら渡って少し行くと、ピンクのテープがなくなっている。気づいて戻って道を探すと、「まさかこっちってことはないだろう」というような渡河ルートにテープが結んであった。これは間違えるよ。
順路に何度か沢を渡るところがあるので、雨で増水すると歩けないだろうから、やはり運がよかった。
切り株の上に生えた杉、倒木の上に並んで着生した杉、倒木更新が終わって下がくぐれるようになった杉など、いろんな杉を通り過ぎて白谷小屋にたどりついたのが11:30くらい。ここにもトイレがあるとのことだったけど、小屋の中は暗く湿気ていて、トイレはすごいにおいがして、なんともすごかった。小屋の中じゅうトイレのにおいが立ち込めているので、ここで泊まるのはしんどそう。
そこから少し上に行くといよいよ旅の目的地「もののけ姫の森」。映画の舞台になった場所とのこと。確かにシシ神さまが出てきそうな巨大な木々のうす暗がり、時々ヒメシャラ(表皮にコケを生やさないため、サルスベリのようにつるつるになっている)のあるところだけが明るく見える。
そこから辻峠まではけっこうぬかるんだ道で、岩をつたいながら靴をなるべくぬらさないように登る。沢を渡っていたら、すれ違った男の人が足を滑らせて足首まで川につかっていた。
辻峠から太鼓岩までが道中一番きつくて、狭くてうっそうと暗くて道もよくわからない急な道を、執念だけで登る。
登りは10分という表示があったが、15分ほどかかって登りきった。
思わず「うわあ」と声が出るほど、一気にぐわーーーーーと視界が開ける。
てっぺんの太鼓岩は巨大な丸い大岩で、草木が生えてないので、そこからほぼ360度、下の山々をはるかに見晴らすことができる。
「もののけ姫」のモロの岩といって伝わればいいんだけど……サンたちがねぐらにしてるところで、テーマ曲が流れるところなんだけど。眼下に山々を見下ろすあそこの風景が広がる。ただ、体感的にはあれよりもっとずっと距離感があって、FFXの死界の花畑の滝の場面くらい広いスケール感があった。
とにかくここの景色はすごくて、行った甲斐があった。バスの運転手が行ってた山桜はまだずっと下のほうにしかなくてあまりよくわからなかったけど。
何千歳もの杉とか、こういうスケールの中にいると、締め切りの一日や二日なんかどうでもいいような気になる(笑)
私が日々ラフ用紙や赤字や画像データやなんかに取り囲まれてあたふたしているときに、アラスカの山にはクマがいて、屋久島の森には杉がただ立っているということを想像するのは、気分がいい。
あと、人間はちょっと地球の上にはびこっているけど、動物の一種なんだから、今は殖えればいいんじゃないの、みたいなことも思った。石油がなくなったり温暖化で地面がなくなったり戦争が起きたり宇宙開発したり、人間は滅びたり滅びなかったりするかもしれないけど、結局動物の一種なんだから、とりあえず地表に殖えとけばいいんじゃないの、と。100年後はまだしも1000年後は誰にもわからない。
そんなことも考えながら山道を歩いていたんだけど、基本的には道を追ったり足元をよく見て転んだり滑ったりしないように気をつけるのに精一杯だから、あまり何かをぼーっと考える暇がない。わりと山歩きの間は自分が無になる。行く前に読んだ田口ランディの屋久島本に、「人が敷いたレールとか、歩きやすいところを歩いているから人はよけいなことをぐちゃぐちゃ考えるのであって、必死に道を探しながら進んでいたら何も考えない」と書いていた。そういうものだ。
あと、自然のままの山道のように見えても、歩きにくいところはけっこうちゃんと手を入れてある。ピンクのテーピングもそうだし、木で階段を作ったり、邪魔な根を削ってあったり。
全体として、「大自然の中にあって人間を思う」道のりだった。
さて、太鼓岩の上は風が強くて寒かったけど、こんな絶景のところで弁当を食べない手はないので、岩陰の風がしのげるところに座って弁当を広げる。私が来たときほかに2人いたけど、しばらくしたらいなくなったので私の貸切だった。
弁当はおにぎり2つと鳥のからあげとエビフライと卵焼きと昆布の佃煮。
食べていたら、ガイドに連れられた女性二人組がやってきた。ガイドいわく、混んでるときはここで弁当を食べると怒られるらしく、「ラッキーでしたね」とのこと。そうなのか。
その人にシャッターを押してもらって写真を撮った。一人だと自分の入った写真が撮れない。
ガイドがいると草花とか歴史とかいろいろ知識を教えてもらえて面白そうではあるんだけど、マイペースで歩けないのはやっぱり嫌だ。ガイドと1対1だったとしても、なんていうか、見栄えを気にするっていうか、「こんな程度で疲れたとか言っては恥ずかしい」とか考えてマイペースで歩けないと思う。友達とわいわいしゃべりながら歩くのも楽しいとは思うんだけどね。一人だと何か面白いことがあっても心の中にしまっておく(そしてあとで日記に書く)しかできないし。
太鼓岩は特定の場所を叩くとスイカのようなポンポンという音がする。中が空洞だかららしい。ますますサンのねぐらっぽい。
帰り道は来たときと別のルートを通る。
山は登りより下りのほうが怪我が多いというのは有名な話だが、ほんとにすぐさま脚がガタガタになる。休み休み、気を抜いて転んだりしないように気をつけて下る。
ペットボトルのお茶を飲みきったので、渓流の水を汲むことにする。屋久島の山の水は川で汲んでそのまま飲めるという。ミネラル豊富な超軟水らしい。すぐに流れ落ちるので川にはプランクトンや魚がほとんどおらず、そのため水鳥もいない。
ということは頭でわかっているんだけど、やっぱり川の水を汲んでそのまま飲むのはどうしても抵抗がある。実際飲んでみると冷たくておいしいんだけど、お腹が「???」みたいな反応を示す。気のせいだと思うんだけど。やはり都会っ子なので、本当の冒険とかでは生きていけないなあ。
9:00に登り始めて、太鼓岩のてっぺんに着いたのが12:20、下り始めたのが12:50。最後のバスが16:10なので、登りと下りを3時間半ずつという目安にしないと間に合わないと計算していた。でもさすがに下りは一気に降りられるので、その前の15:00のバスに間に合った。
といっても、弥生杉を見る寄り道コースは断念。もう足がくたくた。
帰りは楠川歩道というコースを通るんだけど、「歩道」という名前なので行きの最初のような石畳の歩きやすい道を想像してたら、全然違った。江戸時代、島津藩が屋久島の杉を伐採して売ってたころ、男衆が山に入って杉を伐り、女子供がこの歩道を使って運び出していたらしい。楠川歩道は当時から残る石を積んで作った道ということなんだけど、この石積みが歩きにくい。
最後に飛竜落としの横のベンチに座ってお菓子を食べていたら、突然ベンチにひょっこりとイタチ(?)が上ってきた。思わず「うわっびっくりした」と声を出したら、相手も「ひゃっ」って感じでびっくりして、逃げていってしまった。かわいかったなぁ。
15:00のバスはまつばんだ交通という別会社のバスなので、一日フリー乗車券が使えない。もったいないけど、16:10までただ待ってるのも暇だし、寒い(山はけっこう寒い。歩いてると暑くなるから、薄い服を何枚も重ねて脱いだり着たりしていた)。
待合所に落書きノートがあって、各地の観光客の感想が書いてあった。「見ろ、足が棒のようだ!byムスカ」はちょっとフイタ。
バスで530円払って宮之浦港入り口まで戻る。昨日の文化村センター付設のカフェ「ジェーン」に入って一休み。
たんかんタルトとカプチーノ、850円。たんかんというのはポンカンとネーブルのかけあわせで、大きなみかんみたいな感じ。タルトの上に輪切りにしたたんかんが載ってる。タルトの皮がやたら硬くて粉っぽいのが、いかにも手作りという味だった。
そのあとまた資料室で本を読んで、昨日と同じ16:46のバスに乗って安房に戻る。
バスに乗るころ雨がパラついてきて、乗ってる間けっこう降ってたけど、バスを降りたらやんでた。天気がもって本当によかった。
バス停の近くに本屋があったので入ってみる。文房具も売っている店で、外国人の客が折り紙を買っていた。白谷雲水峡でも何人か見かけたな。
宿に帰るなりお風呂に入る。明かりをつけるのを忘れて入ってしまい、だんだん日が暮れて暗くなってくるので焦った。小さいけど深い湯船にみっちりつかる。それにしても人の家のシャワーは使いにくい。
少し休んでから、19:00に宿の近くの「れんが屋」へ食事に行く。ここは鹿の肉で有名な料理屋で、ガイドブックにもよく載っている。
外に出ると、街灯が50メートルおきくらいにあるんだけど、家が少ないからめちゃめちゃ暗くて、人通りも車もまったくない。
でもれんが屋にはけっこう客が入っていた。大きな座敷をついたてで仕切ったすみっこの卓につき、鹿・豚・牛セットの焼肉定食1450円と、たんかんジュース400円を注文する。
一人カラオケはよくやるけど、ついに一人焼肉にもデビューか……。
肉のほかには、もやしの和え物、切り昆布のからしマヨネーズ、山菜の和え物、わかめスープ、ご飯、漬物。鹿肉は全部が赤身のくせのない味で、高たんぱく低カロリーらしい。牛はかたくて、豚が一番おいしいような気がした。
20:00にはまた小雨のぱらつく中宿に戻り、のんびりと世界樹を進めて、また23:00には寝る。疲れもあってよく寝られた。
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